西表島の夜明け ― ミンサーコンクール ―

2017年4月21日(金)、西表島 離島振興総合センターにて、竹富町織物事業協同組合と一般財団法人きものの森の共催で、11年ぶりに「ミンサー作品展~織りなす八重山の伝統美」が開かれました。本文は主催者である同組合理事長島仲由美子氏と同財団理事長矢嶋孝敏の対談と、同時開催の「ミンサー作品コンクール」の授賞式の様子を逐語訳したものです。

矢嶋:今回ここ西表島の離島振興総合センターで、実に11年ぶりに品評会を開くことになりました。私がミンサーと出会った想い出の場所でもあります。その時と比べると、最大の変化は色がとてもカラフルになったこと、そしてセンスが都会向けに変わってきたな、という印象を受けます。それについて、ずっと指導されてきた島仲理事長はどうお考えですか。

島仲:あの頃は紅露(くーる)で染めた茶色の帯が本当に多かったですよね。紅露は八重山にしかない、この土地の最高の色だと自分たちは思っていたので、それを八重山の色として活かしていきたかったんです。

矢嶋:それはよくわかります。紅露の茶色は種取祭をはじめ折々の神事に使われますし、八重山文化の象徴的な色だったのもあるんでしょうね。

島仲:それで「やっぱり紅露だ」と一生懸命に色々やっていたんですが、ある時京都の産業会館での販売会に行きまして。そこで残っている私たちの帯を見たら本当に茶色の山で、私は言葉が出ませんでした。

矢嶋:それは品評会の後ですよね? 私どもが初めてミンサーを扱い1年間販売して、その時に残ったのが、当時理事長がご覧になったその色だったんですよ。

島仲:それから私たちもいろんな色を出そうと頑張ってきたんですけれど、やっぱり自分たちだけでは限界があって、今のような色は出せなかったんです。

矢嶋:沖縄産地は織手さんが染色もやるし色も考えるので各々の独自性が出ますが、色をつくるエキスパートではなかったですからね。

島仲:その通りです。そこで真南風工房長の花城さんが西表に来てくださって、私たちに染めを教えてくれました。それで私たち組合員もまたミンサーづくりが凄く楽しくなって。

矢嶋:それはいつ頃ですか。

島仲:花城さんにいらしていただいたのは去年の春ですね。その前からも色々と見せてもらってはいたんですが、やはり去年は本当に目から鱗という感じで。驚きながらも楽しみが増えて、染色も織りも楽しい!という気持ちに変わってきたんです。

矢嶋:それは花城工房長の指導で、皆さん自身が染めたということですか。

島仲:そうですね。今は自分たちで復習しながら、花城さんの教えを守って一生懸命頑張っているところです。以前から「都会の若い子たちに合うような」モノをつくりたいとは思っていたんですけれど、なかなか自分たちだけではできなかった。それが現在、会長に「西表島の夜明けだ」と表現いただいたように、色数が増え都会の若い子たちに向けた色に変わってきたと喜んでいただけて、私たちも大変嬉しく思っています。


実演指導をされる島仲理事長

矢嶋:色という武器の幅が広がると、表現できる世界も今までより広がりますよね。色数の増加が引き金となって、ただ色数をたくさん使うだけではなく、経絣だけだったのを緯絣にするとか、すかしを入れるとか、柄や絣の出し方も以前と比べて飛躍的に幅ができたと思うのですが、いかがでしょうか。

島仲:今までと違ってこれだけの色数が使えるので、いろんなことに挑戦してみよう、何かひと工夫しようという気持ちを皆が持ち始めたんですよね。竹富の組合は西部地区・東部地区・竹富と3地区ありますが、それぞれにミンサーの特徴が異なります。

矢嶋:竹富では島仲やよいさんが経絣と緯絣に挑戦されて、技術賞を受賞されましたよね。東部と西部の違いはどういうものでしょうか。
実演指導をされる島仲理事長

島仲:西部は古典派と言ったらいいんでしょうか、やっぱり伝統を崩したくない、藍にこだわりたい、という風潮があります。絣の間隔や大きさにしてもあまり崩したがりません。一方東部は絣のサイズを大小交えたり、これだけバラエティに富んだ色が出てきたので、今まで藍にこだわっていた絣の色を黄色やオレンジにしてみようという意欲が凄く出てきたんです。

矢嶋:西部の藍へのこだわりは、辻口由紀子さん(最優秀作品賞)や上森佐和子さん(優秀作品賞)の作品にも表れていますよね。どちらかといえば、元は西部の方が頑張っていた印象があるじゃないですか。横浜や京都といった都会出身の西部の方が元々持っているセンスがあって、それが白場をうまく活かし、すっきりした藍染の絣をつくっていました。それに対して東部は、どういう風にしていいかわからなかった感じがするんですね。結果として西部に比べたら一周遅れではあったけれども、これだけ増えた色数を素直に使い、だからこそ自由にいろんなことができたのではないか。それを象徴するのが、私が「西表島の夜明け」と名付けた早田照美さん(準優秀作品賞)のレインボーの帯でしょう。
それと西部には、私が11年前から知っている方が主力で多い。対して東部は新しい人が増えてきたように思うのですが。

島仲:そうですね。講習によりまた3名の織子が増えました。あまり伝統にとらわれずに、講習で新しく学んだ色染めを素直に出せた感じはします。

矢嶋:私も驚いたんですが、表彰者の中にまだ織り始めて1年という方が何人かいらっしゃったでしょう。それは良い意味で4寸帯の特徴だと思うんですよ。きものや8寸帯をつくるのはなかなか大変ですが、4寸帯はそれらに比べれば手軽にできる。今回の品評会でその良さが特に表れていたのが東部じゃないかなと。

島仲:それと東部の皆さんと話していると、染めも織りも楽しくて楽しくてしょうがないという感じで。ミンサー織りをとても楽しんでやっている傾向がありますね。

矢嶋:モノづくりをする人が楽しい、というのはとても大事なことです。確かにモノづくりを生活の糧にしていくという必要性もありますが、それだけでやっていくと売れるものをリピートしてつくっていくという、何か効率的な仕事になってしまう。けれども今回の品評会では、おそらく東部の方々は「これが売れる」というよりも、「こういうこともできるんだ!」という意思で、素直に創造の翼を広げていろんなモノをつくってきてくれた。それが今理事長の仰った「楽しい」という言葉に繋がったんじゃないかなと思います。
伝統的な技術や柄付けに都会のセンスを入れた西部と、新しい色を駆使して自由な発想をする東部と、ベテランらしい技術力を活かした竹富、その3つのミンサー産地それぞれの特徴がとてもはっきりしていて、それがまた幅や刺激を生んでいる気がしますよね。そこに石垣、白保の持っている力が加わると、同じミンサーの中で何種類もの孫産地ができてくる。しかもそれぞれが刺激を受けながら個性的なモノづくりをしていく。それは西表島や竹富、石垣にとって、凄く大きなことだと思うんです。

島仲:今回の品評会がまた皆のやる気にも繋がりましたし、本当に感謝しています。これからも頑張らせてください。

矢嶋:今まで産地、特に手づくりの産地に、どういう形で向上意欲や健全な競争意欲を促すか、一生懸命考えてきました。というのも、それは一歩間違うと人のものを真似したり、売れるものだけつくればいいという商業主義に陥るからです。しかし先ほど理事長が仰ったように、染めるのが楽しい、織るのが楽しいという中で、とても素直な向上心や競争心が自然に生まれてきたことは、私にとっても本当に嬉しいですし、いい勉強になりました。
ところで展示会後の理事会では、皆さんの反応はどうでしたか。

島仲:とても良かったです。今年度も頑張っていこうということで、理事会でも話し合いをしました。

矢嶋:増産できそうですか。つくっていただければその分だけ一生懸命売りますから。

島仲:ありがとうございます。いろいろとお世話になりながらで、量的にも少ないですが、とにかく一生懸命頑張りますので宜しくお願いいたします。

矢嶋:日本の産地でもごく少なくなった手づくりの染色・手織りの帯を、お求めやすい価格で都会の若い人に渡していくというのは、おそらくもう竹富・石垣しかできませんし、産地の皆さんの力が必要です。これからも宜しくお願いします。

司会:それでは授賞式に移ります。受賞者の方は授与後にどうぞ一言お話ください。矢嶋理事長には講評をいただければと思います。
 でははじめに、最優秀作品賞、辻口由紀子さん。

矢嶋:賞状、最優秀作品賞、辻口由紀子殿。貴女はミンサー作品コンクールにおいて、卓越した感性と技術を示し、頭書の成績を収めました。よってここにその栄誉を称え、これを賞します。平成29年4月21日、竹富町織物事業協同組合、沖縄つくりべの会、一般財団法人きものの森 理事長 矢嶋 孝敏。おめでとうございます。(以降省略)

辻口:本日はありがとうございます。私はいつもぼかしをやりたいと思っていたのですがなかなかうまくいかず、きっちりした括り以外のぼかしを何回か試しまして。それで今回はこの色で経糸のぼやーっとした感じを出しました。絣の部分は普段多い紺ではなく、白が多い地括り絣に挑戦してみました。この白地の絣でしたら他の色だとか、色んなきものにも合うと思います。これからも頑張っていきたいです。

矢嶋:地括りと経ぼかしを併用していて技術も高いですし、経にも緯にもリズム感がありますね。デザインとしても技術としても、非常に完成されています。実は先々週まで二週間、都内でお客様によるミンサー帯の人気投票をしたのですが、やはり辻口さんの作品が一位でした。その時のお客様のコメントをご紹介すると、「青の色が爽やか」、「近代的な趣が好き」、「すっきりしているところが好き」、「色・デザインが好み」、「結ぶ位置で感じが変わるところが良い」など、きものを実際に着る方からの高い支持が伺えます。また20代・30代・50代の年代別でも全て一位になっているのが特徴です。
白場がとてもうまく活きていて、帯として主張しすぎていません。この白場の余白の美が様々なゆかたやきものに合わせやすいという効果をうまく生んでいますので、皆さんも参考にしてください。

司会:それでは次に優秀作品賞、上森佐和子さん。

上森:黒い濃い色を出したくて、茶色を染めた後に藍をかけてグラデーションっぽくしてみました。なかなか自分では思うようにいかなかったんですが…。

矢嶋:とても綺麗なグラデーションです。こちらもお客様の投票でも第二位に入っていまして、「茶へのぼかしが素敵」、「色が大好き、持っているきものに合わせたい」、「粋なところが良い」といった声が寄せられました。上森さんがそう思っているかはわからないんですが、この帯は「粋」なんですよ。こちらの作品は40代・50代・60代と上の年代からの支持が非常に高く、上森さんのもうひとつの作品はどちらかといえば20代・30代に人気でした。色の出方や合わせ方、黄色の使い方がとても素敵だと思います。

司会:同じく優秀作品賞、高市弥生さん。

高市:遠くから見るとそんなにわからないんですが、微妙な緑っぽい色から藍に、というグラデーションにしていまして。綺麗な海のイメージをすっきりと出したいなと思い何回も挑戦していますが、今回のグラデーションは綺麗に出せたかなと思っています。

矢嶋:ブルーに黄色と緑がうまく配されていて、とても沖縄の自然らしい色です。もうひとつは、白場の活かし方がうまい。白の脇の質素をブルーで締めているんですね。とても細かいところまで気が遣われていると思います。この帯もお客様投票では20代・30代に人気で、「海と空を感じた」、「赤から緑のグラデーションが綺麗」、「素晴らしいブルーに、寄り添い引き立てる控えめな黄色もいい」という評価からも、高市さんの狙い通りの作品に仕上がっているのがわかります。

司会:続きまして準優秀作品賞、川満文子さん。

川満:ありがとうございます。去年の10月に講習生として初めて織った帯が選ばれたのでとても嬉しいですし、これからの励みになります。皆さんのような綺麗なグラデーションを出せないかな、と思い頑張ってみました。まだまだ初心者なのでうまくコメントができないんですが…選んでいただいてありがとうございます。

矢嶋:これもすっきりしていて素敵ですね。高市さんのグラデーションとのわずかな違いは黄色の有無。黄色が入って緑と重なって見える、そこが優秀と準優秀の差になってしまいましたが、色がたくさん入ればいいわけではないですし、白場があることで色んなきものに合わせやすいと思います。

司会:同じく準優秀作品賞、田本有子さん。

田本:この作品は四季を表現しています。一番目指しているのは品の良さで、若い女性が地味なきものに派手な帯を締めているのを見て、とても品が良く綺麗だと思いました。これからもそういう帯を織っていきたいです。ありがとうございました。

矢嶋:四季をアピールしている、とは気づきませんでしたが、なるほど、と思います。ブルーとピンク、イエロー、ブラック、この4色がそれぞれグラデーションになっていますね。普通はこの色同士が喧嘩をするんですが、それがない。上品というのがよくわかります。この横に織った雰囲気が、ナチュラルに良いんですよ。こういうものの方がきものを引き立ててくれる。上品とは、言い変えれば色々なきものにコーディネイトできることです。

司会:同じく準優秀作品賞、比嘉律子さん。

比嘉:今までは濃い色で織っていたんですが、花城さんから「こういう帯も織ってみてください」という提案があって、初めての試みで織りました。黄色い帯も織ってみたいと考えていたので、とても良かったかなと思います。

矢嶋:この作品は横に伸びるデザインが特徴で、普通とは異なる出し方がとても新鮮でした。今までこういうものは見たことがありません。それからやはり黄色のグラデーションですね。これは都会の人にとって、東京にはない太陽の色に見えるんです。東京の太陽の色は同じ黄色と言うけれど、こんなに綺麗じゃない。都会の人は沖縄の太陽がこういう風に綺麗だろうと思っています。
また両端に柄があってあとは無地場、というのがすっきりしていて良いですね。これが全部ばーっとリピートになると、ちょっとうるさいでしょう。よく我慢して余白を残したなと。ミンサーの帯ではあまり見ませんが、柄が手先に出るが真ん中にはないというこの技法は、とてもシンプルで良い。うまく抑えが効いているなと思いました。

司会:同じく準優秀作品賞、大山満里子さん。

大山:ありがとうございます。竹富島で半幅帯を専門に織らせてもらっています。今までは単純に一色の糸で織っていたんですが、緯糸も変えて大丈夫というお話を聞き、やっているうちに面白くなってこの作品ができました。これからも頑張っていこうと思いますので、どうぞ宜しくお願いいたします。

矢嶋:この作品を拝見した時に、江戸っぽい柄だな、と最初に思いました。粋だな、とも。それで30代前後の方がつくったんじゃないかなと…。それくらいデザインの感覚が若い。「やっているうちに面白くなった」と仰っているのもとても良いですね。ご立派だと思います。

司会:同じく準優秀作品賞、早田照美さん。

里田:私も講習を受け始めて1年なんですが、西表の木でこういう色がいっぱい出せるのがとても嬉しくて、全部の色を思い切って入れてみました。レインボーの7色という感じで…。ありがとうございます。

矢嶋:色の間に白が入っているのがポイントです。これがなかったら色がごちゃっとしてしまう。それがとてもうまいですね。草木染を指導した真南風工房長の花城さんの力があってこそですが、これだけの色数が西表に自生している木で出せるというのが本当に素晴らしいです。この帯がまだ東部工房の機(はた)にかかっているのを見た時に、勝手に「西表の夜明け」と名付けました(笑)。先ほどから申し上げていますが、これだけの色数を使って、しかもその色同士が喧嘩しないのは素晴らしい感性だと思います。

司会:続きまして染色賞、本盛美恵子さん。

本盛:このような緑色というのはあまり無いと思い、藍とフクギで染めてみました。そして今まで絣は藍だけを使っていましたが、色んな色で染められることもわかって、これはフクギの色にしました。自分でも新しい発見です。ありがとうございます。

矢嶋:こちらの作品の特徴のひとつは、色が真ん中に入っていることです。昨日もちょうど石垣島白保の懇親会で「真ん中じゃあいけないんですか」という質問があって、「いいですよ」と答えました。ずれていてもいいんですが、真ん中にあっても面白い。その緑の色は、皆さんは見慣れているかもしれませんが、都会の人にとっては沖縄のウージやフクギの緑に見えるんですよ。会場から外を見るとさとうきび畑が見えますが、その光景は他の土地には無いものですし、フクギは沖縄か奄美にしか自生していません。そういう色で染まっていることで、ひとつのストーリーができてくると思います。

司会:同じく染色賞、下地昌子さん。

下地:私も講習を受けて1年くらいになるんですけれども、花城さんから教わってオレンジの色を初めて染めた時に、ああこういう色が出るんだと凄く感動して。このオレンジを使ってみたいなと思っておりました。どういう風にしていったらいいのかまだまだ未熟でわからないんですが、先輩方の作品を見て非常に勉強になったので、今後に活かしたいです。ありがとうございました。

矢嶋:同じオレンジでも比嘉さんの帯は昼の太陽の色、こちらは夕焼けの色でしょう。少しロマンチックに言えば、東シナ海に沈む沖縄の夕日の色。そういう風に都会の人は自分でストーリーをつくるんですね。この黄色とオレンジのグラデーションは共濃淡で流れていますので、この間に白が入らなくてもおさまりがつく。しかしそこをぺたっとせずにストライプにしているのは、とても織歴1年とは思えません。

司会:続きまして努力賞、星陽子さん。

星:辻口さん、上森さん、高市さんに教わりながら頑張っております。クワディーサーから出るピンクがとても可愛いので挑戦してみたいです。これからも少しずつ精進していきたいと思いますので宜しくお願いします。

矢嶋:花城さんから教わったばかりなんですが、クワディーサーは葉っぱと幹とで染まる色が違うそうです。葉っぱは茶色、幹の外側は灰色、幹の芯はシルバーと、染まる色が全然違うんですね。クワディーサーも沖縄にしかない植物で、この作品の特徴はその葉っぱの色を使用したところです。とても上品でおさまりがいい。むしろこちらはいろんな色を使わないことによって、シンプルな良さがでています。

司会:同じく努力賞、大城りささん。

大城:ありがとうございます。私も下地さんや早田さんと一緒に講習を受けて、まだまだ習いたての身です。ひとつひとつ染めから織りまで、どんな風になるのかな、こんな風になるんじゃないかなと思いながらやっていても想像とは違ったものができたり、デザインも織ってみるとちょっと違っていたりと、いつも考えながら織物をしています。これからも頑張りたいと思いますので宜しくお願いします。

矢嶋:大城さんの帯も色のトーンが合わせられているのです。そうすることで多色でも品良くおさまる。ここまでトーンを合わせたものは他の作品にはあまり見られなかったのですが、ひとつのテクニックとして良いなと感じました。

司会:続きまして奨励賞、東浜さと子さん。

東浜:ありがとうございます。私も11月に講習を終えたばかりで、頭を抱えながら織りあげました。素晴らしい講師の方に教わりながら、これからも頑張りたいと思います。

矢嶋:非常にベーシックな藍一色ですが、色の使い方とベタ地、ストライプの使い分けをすることで、一色でもここまでのデザインができています。柄を思いっきり片側にずらしたのも良いですね。それによって上の白とのバランスがとれており、とても面白い作品に仕上がっています。

司会:最後に技術賞、島仲やよいさん。

島仲:ありがとうございます。いつも経絣のミンサー帯が織られていたので、今回は緯絣を何箇所か入れたのと、少し涼しい感じを出したくてこのようなデザインにしました。

矢嶋:この作品はご本人が仰るように経絣、緯絣、とちゃんと絣目を押さえています。経の絣と緯の絣のバランスも絶妙ですね。横の色の入り方がランダムに見えるのがとても自然で良い。しかもランダムかなと思うと、縦に糸を抜いて透かしも入っている。それによってとても清涼感のある、夏っぽい感じにできていると思います。とても素晴らしい技術力と構想力でしたので、特別に技術賞として選定いたしました。

司会:受賞者は以上です。それでは矢嶋理事長、総評をお願いいたします。

矢嶋:何回も申し上げましたが、このミンサー帯を今一番欲しがっている人は、都会の25~35歳くらいの若い女性です。イメージで言えば、朝から晩までコンクリートジャングルの中でパソコンと向き合い男と互角に仕事をして、日々ストレスの溜まっている東京のOLさん。彼女たちはまずゆかたにミンサーを合わせます。
年代が40~50代にあがると、合わせるのは実は大島紬なんですね。大島紬と沖縄の島々は、琉球弧という同じ文化圏ですから。大島紬はもっと濃い色合いが中心なので、明るい色目の帯が合わせやすい。どちらに合わせるにしろ、やはり明るい、彩度の高い色目が好まれます。それは着ているのが都会の人だからです。
西表島という熱帯雨林に近い、自然の深いところでとられた天然染料でつくられた帯が、都会で暮らす女性たちに好んで締められるというのは素晴らしいことだと思います。人は自分に無いものを求めますから。沖縄の人に「何処に行きたいですか」と尋ねれば「北海道」と答えますし、北海道の人ならその逆で、それと同じことですよね。この明るい色目こそ沖縄らしさです。同じブルーでも空と海とでは色が違いますし、太陽も昼間と夕方では違います。そしてウージの畑を渡ってくる風の緑の色。それぞれを表現した結果、まさに竹富島や西表島らしさを感じられる色が大変増えました。そして皆さんは白場をうまく使ったり、逆に単色の同系色にしてみたりと、その色数をうまく使っています。自己主張を強くさせずに抑えることで余白の美、白の美ができて、結果きものと合わせやすくなっているのがとても特徴的です。
都会とは限りませんが、今の女性たちは手織り・天然染色のものをほとんど持っていません。皆さんも手織り・天然染色の洋服はなかなか持っていらっしゃらないでしょう。手織り・天然染色が、都会という文明の真ん中で生きている人にとっていかに心の癒しになるか、どうか知っていただきたい。皆さんが織っているのは、実は帯ではなく、都会の女性たちに対する「癒し」なんです。今は辛いけれど、有給休暇を取ったら西表島や竹富島、石垣島に行きたいなあ、という気持ちで皆さんの帯を締めているんだと思ってください。以上で総評とさせていただきます。ありがとうございました。