久米島紬の帯 創りました!

2018年3月1日(日)、久米島の工房真風南(まふえ)にて、初の久米島紬帯作品コンクールが開催されました。本文は、コンクール授賞式の様子と、式後に行われた久米島紬保持団体会長 山城氏と一般財団法人きものの森理事長 矢嶋(弊社会長)の対談を逐語訳、編集したものです。

司会:本コンクールの審査形式ですが、公平を期すため作品の制作者名や柄・染めの説明を全て伏せた状態で、各審査員の持ち点による投票を行い、厳正な審査の下に各賞を決定いたしました。受賞者の方は賞状授与の際に是非一言お話しください。その後、矢嶋理事長に講評を頂きたいと思います。

最優秀賞

まず始めに、久米島紬帯作品コンクール 最優秀賞。

最優秀作品賞 平良美智子

矢嶋:賞状、最優秀作品賞、平良美智子殿。貴女は久米島紬帯作品コンクールにおいて、素晴らしい作品を制作されましたのでこれを賞します。平成30年3月1日、一般財団法人きものの森理事長 矢嶋孝敏、沖縄つくりべの会会長 花城武。

平良:ありがとうございます。私の作品は、久米島らしさを出すため主に泥染めを使っています。自分が着たいと思う帯を作る、という想いでデザインしてみました。

矢嶋:白を上手く効かせながら泥染めとグールの同系色でまとめていて、これぞ久米島の本流という帯ですね。何故かと言えば、泥染めができるのは世界中でここ久米島と奄美だけだからです。
しかも久米島の泥染めはグールと泥、奄美はシャリンバイと泥で、同じ泥染めでも異なります。グールと泥の紬は、久米島にいる皆さんにしか作れません。まずグールが自生していませんし、泥も久米島と奄美大島のものだけが使えます。
学者の調査によると、石油と同じくらい古いおよそ50万年前の地層が久米島と奄美大島だけにあり、それが空気と酸化して化学反応を起こし泥染めを可能にするそうです。泥染めは確かに大変な作業だと思いますが、久米島という地球上でも貴重な環境がある土地だからこそできることを忘れないでください。
平良さんの作品は、今までの1色の泥ではない多色のグラデーションの美しさや、絣の技術の高さ、デザイン的に優れた白の活かし方、といった点で、最優秀賞に選ばれました。

※注釈:シャリンバイ(車輪梅)は一般的な名称ですが、沖縄ではテカチ、奄美ではテーチ木と呼ばれます。

優秀作品賞

優秀作品賞 塩田史麻

塩田:たくさん数を織ってきた中で、自分が一番好きな帯が選ばれたのが嬉しいです。組織織りが好きでこれからやってみたい組織がたくさんあるので、勉強しながらどんどん良いものが作れたらなと思います。

矢嶋:この帯に使われている琉球藍とフクギも、沖縄を代表する草木染の染料です。皆さんにとってフクギは当たり前に生えているものかもしれませんが、本州には無いんですよ。フクギの黄色は他の草木では出せません。織りに関しては、ぼかし方が場所によって違っていて、ともかくいろんなことをやってみたい、自分の持っている技術をたくさん出したい、という想いで試行錯誤しながら織られたのだなと感じました。

優秀作品賞 城崎暁葉

城崎:自分としてはある意味染めを失敗した作品でして(笑)。というのも本当はグールで赤い色を出したかったのですが、上手くいかなかったので「じゃあシックなものを作ろう」と方向転換して頑張りました。

矢嶋:グールと泥を基本にフクギやゲットウも使って色の幅を出していて、かつ全体がシックに上手くまとまっています。ベージュやピンク系のきものに合わせやすそうですね。もちろん織りの技術も高く、比較的薄い色の所で織りをはっきりと出しているのは上手く考えられているなと思います。

デザイン賞

デザイン賞 米須ひとみ

米須:この柄は平良美智子さんに教えてもらいながら織ったもので、色も塩田さんや皆さんにアドバイスいただきながら決めました。今日からまた頑張ります。

矢嶋:真ん中にフクギの黄色、その両側にグール、クワディーサーのグレー、間には白というバランスが上手いですね。3~4色使う時にはそれらが喧嘩しないようにどう配色するかがポイントです。最優秀作品でも白が活きていると評しましたが、色同士が喧嘩せず全体の調和がとれていたのでデザイン賞に選びました。

デザイン賞 佐久本厚子

城崎:織っている時は夢中なのですが、いざ織りあがってみると「何でここにこれを入れたかな」と思う部分(帯のタレ先の部分の横段)もあるので、そこは今後の課題かなと。私は基本的に市松っぽい柄が好きで、織りを変えて組織織りをしました。

矢嶋:久米島紬で市松柄を作るという発想はとても良いです。市松というとヴィトンのダミエ柄を連想する方もいるかもしれませんが、市松はその80年以上前の江戸時代中期に生まれた柄で、歌舞伎役者の佐野川市松が市松模様の袴を用いたことから広まったと言われています。そういう江戸の粋な柄を、白地に琉球藍という非常にモダンな感覚で表現している。さらに白場と藍と下の綾織りの地紋の出方が全く違って見える不思議な効果があって、久米島紬でこのような江戸のセンスを見られるとは予想していませんでした。デザインとしてとても優れていると思います。

染色賞

染色賞 真喜志時子

真喜志:最初は織れるかどうか不安だったのですが、皆さんの助けや指導を得ながらどうにか織り上げました。ありがとうございました。

矢嶋:藍とフクギ、そしてそれを掛け合わせた緑、白の4色が上手く織られていて、白場がうまく活きています。この白が無いと喧嘩してしまいますから。白があることでグラデーションがバランスよくとれている。それも全部ではなく一部だけをグラデーションにしていて、色の使い方が上手いなと。料理で言えば、いろんなものを入れてお鍋を作ると何の味がわからなくなってしまいますが、そうならない所できちっと止めているのがとても美しいと思い、染色賞としました。

技術賞

技術賞 佐久本厚子

佐久本:この帯は1つ目にできた作品で、やっぱり出来上がりを後から見ると「ああすればよかった」と思う所があるので、これから精進します。ありがとうございました。

矢嶋:フクギの黄色とグールの茶色の2色だけでシンプルにして、絣の美しさを強調できている点が良いですね。少し勿体なかったのは、柄がちょっと多かったかなと。もう少し柄を抜いて間隔を開けた方が良いと思います。不思議なことに柄がある所よりも、黄色い無地場の地模様の方がとても立って見えるんですね。それは帯としてはとても重要ですので、技術賞に選びました。

技術賞 平良美智子

平良:最初の頃の作品で、緑の糸が少しずつしか無かったので、織り段で調整して5色の緑の変化を活かしてみました。残り物の色で作ったのでまさか選ばれるとは思っていませんでしたが、ありがとうございます。

矢嶋:モノを最後まで使い切ることは、実は非常に大事です。特に皆さんの使う草木染めの糸には、草木の命が宿っています。言い方を変えれば、草木は自分の命の代わりにその糸を染めてくれているわけですから、それを最後の1本まできちんと使うことはとても大切なことです。また、これだけの色を使いながらも見事に収めたなと思います。
実は20年ほど前まで、緑という色は草木の天然染料では絶対に出せないと言われていました。それが沖縄に自生するフクギと藍を掛け合わせることによって緑が出せるようになったんです。
都会の人はこの緑に、サトウキビのウージの畑を感じます。緑のグラデーションも素晴らしいので染色賞と迷ったのですが、様々な点で草木染め・手織りの技術と想いが込められた作品だと思い、技術賞としました。

奨励賞

奨励賞 上原明美

上原:道具を扱うのも初めてでしたが、皆の力を得て完成できました。ありがとうございました。

矢嶋:藍とフクギ、その掛け合わせた緑を使っていて、私は久米島の海と空、ウージの畑、そしてそこに流れる光を表現していると解釈しています。都会の人間からすれば、これらの色に久米島の自然を感じるんです。色使いだけではなく織りもしっかりとしていて、今後により期待して奨励賞としました。

奨励賞 宇江城美津枝

宇江城:こちらは初めて織った帯で、とても楽しく織ることができました。また頑張ります。

矢嶋:色の幅と地色を上手く活かしています。黄色からベージュ、薄茶系までの色のハーモニーが綺麗ですね。無理がなく収まりがあるので、とても合わせやすい。帯として非常に汎用性が高く、いろんなきものにしっくりと馴染む帯だと思います。

総 評

矢嶋:それでは総評をさせていただきます。改めまして、きものやまと会長の矢嶋です。やまとは去年で創業100年を迎え、現在全国に120店舗を展開しています。その他に私は一般財団法人きものの森財団の理事長、NPO法人全国つくりべの会の最高顧問も務めています。<
全国つくりべの会は北から米沢、小千谷、十日町、桐生、結城、東京、浜松、加賀、丹後、西陣、京友禅、博多、久留米、鹿児島、奄美、そして沖縄と、全国16産地、224名のつくり手が参加する組織で、後継経営者と後継技術者の育成を始めとして、産地のモノづくりを支援してきました。
さて、昨日の審査で皆さんの作品を拝見した時、3年というわずかな期間にここまで素晴らしい色と織りの組み合わせを出せるようになったことに、大変敬服いたしました。今までの久米島の伝統的な泥染めやグール染めの技法を基本にしながらも、新しい技術や色の組み合わせを強く感じています。
皆さんご存知の通り久米島は最古の紬で、久米島紬が奄美大島にわたり大島紬が生まれたと言われています。つまり日本の紬の原点が久米島紬であり、その帯を皆さんが織るということは、1人でも多くの方に久米島紬を知ってもらうことにおいて大きく意味を持ちます。どういうことかと言うと、きものは織るのにも時間がかかるので当然値段も高くなりますが、それに比べると比較的織りやすく、それゆえ帯は買いやすい値段ですよね。都会の20代後半から30代の人でも、今回皆さんが作られた帯を頑張れば買うことができる。つまり今までは久米島紬に手が出なかった若い人にとって、皆さんの帯が久米島紬の織物を身に付ける1つの入口になる、ということです。
皆さんご存知の通り久米島は最古の紬で、久米島紬が奄美大島にわたり大島紬が生まれたと言われています。つまり日本の紬の原点が久米島紬であり、その帯を皆さんが織るということは、1人でも多くの方に久米島紬を知ってもらうことにおいて大きく意味を持ちます。どういうことかと言うと、きものは織るのにも時間がかかるので当然値段も高くなりますが、それに比べると比較的織りやすく、それゆえ帯は買いやすい値段ですよね。都会の20代後半から30代の人でも、今回皆さんが作られた帯を頑張れば買うことができる。つまり今までは久米島紬に手が出なかった若い人にとって、皆さんの帯が久米島紬の織物を身に付ける1つの入口になる、ということです。
次に、帯を作る時に押さえるべきポイントについて。もちろんきものと帯の両方とも大事なのですが、基本的にはきものに合わせる帯を探すというスタンスが多いです。それを踏まえると、帯には二つの系統が考えられます。一つは同色系できものと喧嘩しない、シンプルで何にでも合わせやすい帯。もう一つは逆に、無地感のきものにアクセントとして合わせる多色使いの派手目な帯です。どちらかが良いのではなく、両方とも必要だと思ってください。今 比嘉さんの着ている久米島紬も、同色のシックなコーディネートですよね。ハーモニー配色という、調和のとれた合わせ方です。また、きものにも帯にも多く柄が入っていると、両者が喧嘩してしまうんですね。たくさん柄が入っていれば良いものでもなく、一般的にはシンプルな方が合わせやすく汎用性が高くなります。きものを引き立てるシンプルな帯があること、一方できもの1枚に帯3本と言われるように、帯を変えることできものの表情を変える、コーディネートの顔となる帯もあることを押さえておいてください。
最後に、皆さんの帯を最も買っていただけるのは、おそらく圧倒的に東京近辺に住まわれている方々です。東京の女性たちは、毎日仕事や家事のストレスを抱えながら暮らしています。そんな彼女たちにとって皆さんが作っている久米島紬は、きものに締める時に限らず箪笥から出して見ているだけで心を癒してくれるんです。草木染めで手織りという、都会には無い手づくりの帯から癒しやパワーを貰うわけですよ。もう1回頑張ろう、大げさに言えば、また生きていこうと思わせてくれるような力が、この草木染めと手織りにはあります。皆さんの作品からも強く感じました。これからも久米島にしかできないモノづくりを、草木染めと手織りを、自信を持って続けてください。私どもは皆さんの作品を一生懸命売らせていただきます。

特別対談「手づくりの日本文化」

司会:続きまして、矢嶋最高顧問と久米島紬保持団体会長の山城宗太郎様に、「手づくりの日本文化」というテーマで対談をしていただこうと思います。

矢嶋:実は昨晩、お孫さんが迎えに来られた21時半頃まで盛り上がっていたのですが、そこでのお話が私だけ聞くのはもったいない内容で、この対談を無理矢理お願いしたんです。昨日話されていた中から、いくつか「山城宗太郎語録」としてまとめてみました。 まず、「手仕事は手を抜いてはダメ」と仰っていましたね。その意味を教えていただけますか。

山城:仕事をやる時は誠心誠意を込め、一生懸命やる。中途半端で適当にやったり、ちょっとした部分で手を抜いたりすると、後にシワ寄せが倍になって返ってきますから。必ず後で怖いことになります。そういうことがないよう、どの準備でも簡単にしてはいけません。染色、特に黒の染めは20日以上かかりますから、念入りに準備が必要です。時間がかかるので糸が絡まりやすく、こんがらがってしまうのです。
「まあ、いいか」「こんなもんでいいか」というのもダメです。まあまあの状態で済ませてしまうと、必ず「もっとこうしておけばよかった」と後悔しますから。最初からきちんとやっておかないといけません。

矢嶋:「染めることの感動」というお話もされていましたね。納得するまでやり尽くす、と。

山城:黒でも色物でも、納得するまでとことん染めていかないと、自分の目指す色が出てきません。僕が今着ているものは黄色に染めてありますが、少し染めるだけでこの色は出るけれど、何度も染色した時の良さは出ないのです。1日4~5回、45日間も染めをすることでようやく納得する色になります。
これを染める時も、「今度やって色が出なければこれで最後にしよう」と言うほど染めてから、最後の最後に求める金茶を出すことができました。黒はもちろんですが、色物でも、納得するまで染めるべきです。今はデザインによって色も変わってきますが、目指す色になるまで染めて、納得する色が出てやっと終わりにするくらいでないと。

天然素材で染めた糸

矢嶋:色を出す、というお話がありましたが、色は「出る」のではなく「出す」ものなんですね。グールやフクギ、クワディーサーからどういう色を引き出すか、それには無限のやり方があります。
今度石垣の市民講座で石垣、竹富、西表ミンサーの手織りと草木染めという2つの文化についてお話しさせていただく機会があるのですが、それらの資料をまとめていて感じたのは、染め方によって色の定着が異なるということです。 天然染料の最大の問題は、耐光堅牢度です。それについては皆さんが今後も研究していかなければなりません。もちろん、色の褪せないものはありません。化学染料と違った天然染料の良さでもある。
しかしその中でどうやって耐光堅牢度を高め、色が褪せたり落ちたりしないようにしていくか、いろんな工夫ができると思います。例えば、色を定着させるのに一番良いのは寝かせておくことなんです。
江戸時代に作っていた藍染めは反物を5年くらい寝かせてから出荷していたのですが、そうすると反物に色が馴染み落ちにくくなります。しかし今はその方法ができません。織ってから5年間も工賃が入ってこなかったら皆さんも困るでしょう。だからどう工夫するか、が重要です。昨日宗太郎さんに、糸を染めた後の洗いが大事だということを教わりました。

山城:泥染めの場合、泥の鉄分によって黒く染まります。染色が終わった段階で糸をゴシゴシと洗ってちゃんと泥を落とさないと、中途半端な洗いでは1~2年で糸が弱ってボロボロになってしまうんです。糸を揉んでよく洗い、糸を浸した水が真水のままであるくらいに綺麗にしないと。
今皆さんが染めをしているものだとクルサを使いますが、クルサを使うと余計に糸が弱ります。しっかり洗わないときものに仕立てた後も弱ってしまい、酷いものでは2~3年で、触っただけでも糸が切れてしまうくらいです。何十年も着るものですから、注意しないといけません。
※注釈:クルサはホルトの木のこと

矢嶋:洗うという工程でも、「手を抜かない」ことが重要なんですね。宗太郎さんの仰る通り、泥染めは特に糸を傷めます。鹿児島でも大島紬を織っているのですが、鹿児島で泥染めができないのは、桜島の灰が混じっていて、粒子がとがっているからなんです。無駄なものは落としておかないと、糸の上に乗っかっているだけなので落ちてきますから。しっかり洗うということは、乗っかっているだけの無駄な染料を取り除くことになります。
そして天日干しをすることで、糸の上に乗っているだけの染料を糸に馴染ませる。そこで手を抜いてしまい、早くやろうとしてはいけません。どうやって耐光堅牢度の強いものをつくっていくかの研究です。もちろん全く色が変わらないということはないので、私もそれはちゃんと伝えています。
私たち人間がエイジングしていくように、10年前、20年前と変化が無いのはおかしいですよね。しかし美しくありたいと思うのと同じで、できるだけ色を残すために、きちんと洗うこと、そして天日干しをしっかりすること。その間の工程を短縮したり、手抜きしたりしないことが大事なのではないかとつくづく思います。

シャリンバイ

矢嶋:どんな草木を使うかも重要ですよね。今草木染めをやっている人は全国にたくさんいるんですよ。しかし例えば米沢の染め手さんが皆さんと同じように材料を取ろうと山の中に入っても、福島寄りにある材料が原発の問題で非常に弱くなってしまい、満足のいく染めができなくなってきています。植物はいろんな影響を受けますし、その土地の持っている土壌の力、植物の力は場所によって全然違うんです。
以前私が住んでいた世田谷区には、排気ガスに強いという理由で道路沿いにシャリンバイがたくさん植えられていました。ところが世田谷のものは、久米島に生えているものより幹がうんと細い。おそらく世田谷のシャリンバイでは久米島のように染まらないでしょう。
花城さんが久米島が材料の宝庫だと仰いますが、そういう地域に皆さんは住んでいます。自然が深い=生命力が強いことですし、生命力が強い=染める力も強いということです。

山城:シャリンバイにも2種類あるんですよ。久米島のシャリンバイは中が赤くなっているんですが、それが真っ白いものは染める成分が少ないんです。生えている場所によって、中が赤くならないものがあるんだと思います。北風が強い所は皮を少しめくっただけで中が真っ赤なので、厳しい環境に育ったものの方が染める力が強いのかもしれないですね
同じ植物でも木の上と下、根っことでは色が違いますし、特にソテツは北風の当たる所と当たらない所でまた色が変わります。だから僕は北風の強い黒石(クルシ)という地域から染料を取ってきます。普通の家に植えられたソテツと、葉の色が全然違いますから。

矢嶋:青森のリンゴ農家である木村秋則さんの実話を著した『奇跡のリンゴ』という本をご存知でしょうか。彼のリンゴは、農薬を全く使っていません。そうすると林檎そのものが害虫を寄せ付けない力をつけるそうですが、そうなるまでにおよそ8年かかっています。そう簡単にできることではありませんが、リンゴそのものに力がつけば、美味しいリンゴができる。皆さんが扱っているのは草木ですから、同じ木でも1本1本性格が違いますよね。どういう木を使うか、も重要だと思います。紫陽花は地面のpHによってブルーからピンクまで色が変わります。
それと同じように、どういう所で、どういう土壌で草木が生えているかによって、出てくる色も違ってくるんです。だからとても奥が深い。あと100年200年生きないと、極められないかもしれないですね。(笑)
皆さんがこの場所を選んだ理由のひとつに井戸がありましたが、水も非常に大切です。日本のように水道の水を飲める国は世界でもほとんどありませんから。熊本のほとんどは塩素の入っていない地下水ですし、久米島も水がとても豊富です。
例えば京友禅は昔、今はもう道路になってしまった京都の堀川で友禅流しをしていました。江戸小紋は神田川、加賀友禅は浅野川と手取川を使っていました。元は織りの産地だった十日町で染めが発達したのは、越乃寒梅や八海山などの美味しいお酒や南魚沼産のコシヒカリをつくるのと同じ雪解け水で染めることで、深い色が出せるようになったからです。しかしそういう地域でも草木染めはできません。皆さんの住むここ久米島は、材料となる草木、そして水が豊富にある恵まれた土地なのです。
沖縄の強い日光による天日干しも、色を定着しやすくしていると考えられます。雲が3割以下の日が晴天とされているのですが、沖縄は晴天の日数は意外と少なく、ほとんどが曇りなんです。天気が良いと思うのは雲が多くても日光が強いからで、その光で天日干ししたものは、飛ぶ色が先に飛んでしまうので良いのだと思います。そこを絶対に手抜きしないで染めていくことがとても大事なのではないでしょうか。干しているうちに色が変わってくるのは、馴染んでいるということですから。色が変わってきたから止めるのではなく、変わるまでした方がいいんじゃないかな。

山城:染色しているうちに、染まっていくのが手の感覚でわかるんですよ。乾いているようで、湿っているような。どんなものでも、染めるとそういう変化があるんです。特に泥染の場合、手で触った感覚でシャリンバイの中で染まり始めている変化が分かるのですが、それでも2、3日はじっくり染めてから泥の中に入れます。そうすると色合いが大きく変わってきますね。

矢嶋:そうですね、本日は貴重なお話をありがとうございました。